ソウシのひと 【vol.1 須永さん】

連載シリーズ「ソウシのひと」を新しく始めます。

「ソウシのひと」では、SOCIスタッフへのインタビューや主催イベントのレポートを通じて、私たちが今まさにどのように「まちと、プロジェクトと、つながって」いるか紹介し、私たちの人となりやSOCI流のデザインの一端、そして今後の展望を発信していきます。(聞き手:SOCIパートナー 三浦詩乃)

第一回は、事務所立ち上げ期からデザイナーとして活躍してきた、須永花奈さんにインタビューしました。須永さんがいなければ、いまのSOCIが無かったほどの存在です。その人となりから担当中のプロジェクトまでお聞きしました。

須永花奈さん

須永さんのデザインのアプローチの根っこの部分を知りたいなと思います。大学時代やこれまでの経験についてお話してもらえませんか。

SOCIの仕事でもパースを担当していますが、公私ともに、とにかく絵を描くのが大好きです!

多摩美術大学環境デザイン学科を修了し、植木屋、ランドスケープデザイン事務所、長野県の工務店での、多様な実務経験を重ねた後、SOCIに参加しました。多摩美大では、実際に手を動かしてものをつくりこむ課題が多く、自分の身の回りにある「関係性」に焦点を当てて、デザインを捉えてきました。1つ1つのものづくりを深化させることも大事ですが、大学ではドローイングや模型作り、プレゼンテーションパネル作成を通じて、その目的や意味を「伝える力」を身に付けられたかなと感じています。その後、親方の背中を見ながら仕事を学ぶ植木屋さん、ナチュラルな価値観を中心に40人規模のチームが一体感をもってまとまる工務店の仕事など、個性的な職場を経験してきました。

様々なチームに身をおきながら、表現力を磨いてきたんですね。SOCIでの仕事はどう感じますか。面白いと思う瞬間はどこにあるでしょう?

実は、ここに来るまでは、デザインを考える時間の8割方「形」のことだと考えていました。でも、むしろ、「形」は2割ではないかと。市民のためにと、事業を進める自治体との仕事の枠組み、関係者が多様かつ多数いるパブリックスペースを扱うには、8割が「対話」です。SOCIの力の見せ所は、対話の結果、固定的にというか無難にまとまりそうになった、「形」を、1~2段ジャンプすること。ここでのスケッチが、本当に楽しいんです!対話のどこで、このジャンプアップのためのアイデアを発揮すべきか、常に見極めています。コンセプチュアルで制約が少ない大学時代の表現よりも、検討はしやすいかなと思います。

街路と公園、いずれにも携わっていますが、シェアドスペースのようなこれまでの固定観念をこえていくデザインの可能性、あるいは自動運転技術など想像できないレベルにいく伸びしろがあるのはいまは街路の方かなと思います。

事務所がある学芸大学の商店街

業務の現場の様子が伝わる言葉ですね。現在実際にどのようなプロジェクトに関わっていますか。

いまメインで関わっているのは千葉市・千葉公園通りの基本設計です。

千葉公園通りは、これまで千葉都心ウォーカブル推進の取組の対象地として、歩行者天国や沿道店舗のテラス席営業、出店等の社会実験が2年にわたり実施されてきました。2022年からSOCIが関わり、市民参加のワークショップを通じて千葉公園通り改修の将来像を検討、今年度(2023年)は基本設計段階となり、引き続きワークショップを実施しながら、具体的な空間設計をしています。

行政の職員さんらともチームとして一丸になって取り組んでいるプロジェクトです。ここでは、Link and Placeという理論をつかって、試行錯誤してワークショップを進めました。参加者の方々から「運営側からインプットがあるのが面白いね。新しいまちの見え方があるし、わかりやすい。」と好評です。一方的に案を出してください、とお願いするのでなく、相互に知見を渡しあえるのがよかったんだなぁと。

とはいえアイデアを出すフェーズから、形に起こすフェーズに入ると、住民やクライアントの皆さんの声を実現するために、まさに、デザインとしてジャンプしていくために、標準的設計や基準を読みかえていく必要が出てきます。形が見えると、管理者の方などから懸念の声も出てきますから、丁寧に向き合っていきます。

そのほかには、URさんがクライアントとなった公園のあり方検討にも関わっています。今後、プロモーション映像とパンフレットが公開される予定です。状況の異なる5つの対象敷地に対して、新規技術の展開も視野に入れて提案資料を作っていくものでした。

プロジェクトとの巡り合わせもあるかもですが、締め切り間際以外は10-19時定時の勤務で、うまく業務量のバランスを取りながら、こうした多様なプロジェクトに取り組んでいます。

街路のプロジェクトのお話では、住民の方との間でインプットを「相互に渡し合う」という入り方、行政チームとのパートナーシップなど、プロセスデザインの重要性に改めて気づかされました。

さて、スタッフ人数も少しずつ増えてきたSOCIチームで、今後やっていきたいことは何でしょう。

いくつかの職場のあと、実は私、少人数の1人で経営しているようなところにいきたかったんです。創業期のSOCIに入ろうと思ったきっかけの1つでもあります。だけど、いま少しずつスタッフが増えてきていて、思いがけなく「組織」の面白さを目の当たりにしています。代表が「僕と違う人がほしい」と、常日頃、明言しているのがいいなと思います。私も、絵を描くことをうまく活かしているように、他のメンバーも、各人のノウハウを発揮できる。また、無理なくそうできるような、選択肢の多様なワークライフを実現できる社内の制度や環境整備にも、今、関心があります。

私のワークライフですが、どうしてもパソコンばかりになりがちなので、つくること=集中して純粋に表現することが恋しくなります。先ほど、8割対話、2割形だと言いましたが、その2割の中のディテールでは作家性も問われる場面もあると思います。

3Dプリンターの造形ができてくると、須永さんの本領がさらに発揮されるかも?

そうですね。パブリックアートにも関心があります。

お気に入りの鯛焼き屋さん

SOCIメンバーから学んだことはあるでしょうか。今年はパリとコペンハーゲンへの海外視察もありましたね。

大藪からは、「仕事を楽しむ姿勢」を学んでいます。守るべきところはあるが裁量がきく。自由に働きつつ、やるときはやるという。その分、ポイントは教えてくれつつも、放置、いや(笑)、任されている場面も多いので、スタッフそれぞれの個性に応じて伸びていく、という面もあるかな。あと、新しいものを取り入れることへの好奇心も全員すごいですね。

海外視察については、これまで業務のために海外にいくことがなかったので新鮮な目線で見て回りました。カフェが10mおきにあるような欧州のまちを見ると、文化、つまり社会性、気質、教育によって行動が変わってくるのだろう、と考えさせられました。日本人の文化で、みんな外に出てきたがるようになるかな、マッチする形が違うのでは、と振り返りながらデザインを見る目を新たにしています。

ありがとうございます。最後に、須永さんにとっての「パブリックスペース」とは?

“「自分の自由や創造性をそれぞれが認知して、発揮できる場所」です。”

そういう空間として、住民や利用者が認知していないと、利用方法も寛容にならない。一緒に生きていこうという方向にならない。場と人のありようで、地域の人たちの心で成り立っていると思います。

自分の自由や創造性を発揮し、他者のそれも尊重する場となるためには、空間デザインとしてそのように設えるだけでなく、パブリックなマインドを持った人々がいるかが重要です。

そのような心が育まれる社会や文化にも大変興味がありますし、一つのパブリックスペースのあり方によって、各人がもっと自由さを発揮できる地域社会が育ったりもするかもしれない。そのような可能性や循環を秘めているパブリックスペースを舞台に日々仕事をしています。